月曜日, 4月 11, 2011

稲恭宏博士の講演をUチューブで聞き、考えたこと(前回に続けて)

前回の記事を書いてその後、ニュースやネット関係で幾らかの情報が得られたので、もう少し突っ込んで考えてみました。前回同様、全体としてまとまりがありませんが、とりあえず問題点の列記です。

◆ 前回、稲博士の考え方に沿って自然放射能の高い地域での調査結果をネットで調べてみた結果、筆者の判断として、平均的自然放射能の10倍くらいまでの線量率の場所では、少なくとも全く問題はないであろうという確信(と言っても良いと思うが)が得られた。その後得られた情報からも、このような考え方をしている人や、機関は多いように思われた。政府関係の発表にもこのようなデータに基づいているケースがあるように思われる。

この件に関連してツイッター上で次のような発言を見つけた。
『 @hkawa33: 政府は公式に「100mSv以下の被ばくでがんが増えるという科学的根拠は無い」という「しきい値モデル」に立っているのだろうか?少量でも危険は被曝に比例するという「直線モデル」も検討が必要。「NHKニュース: 学校に屋外活動控える指示も」 http://nhk.jp/N3v86NcP』

このツイートで「しきい値モデル」と「直線モデル」という言葉を教えられたのだが、稲博士の考え方は「しきい値モデル」、ただし線量ではなく線量率のしきい値モデルに基づき、そのしきい値が自然レベルの数千倍と極端に高い、というふうに表現することができそうである。そして「直線モデル」と言われているのが、稲博士の言う、「チェルノブイリでのデータを外挿しているだけのデータ」に相当するのであろう。個人的には「モデル」という言葉には少々違和感があるけれども。

個人的には、しきい値のデータに信頼が持てるのであれば、しきい値モデルを使うのが正当だと思うのだが。特に中国広東省のデータのように平均的自然放射能レベルの3倍で地域ではむしろがんの死亡率が低くなっているという事であれば尚更直線モデルの妥当性が少なくなるというものである。

◆ その後の情報でもう一つ、気になったのはチェルノブイリでの事後調査を報告したNHKのドキュメンタリー番組があちこちで紹介されていたことである。全体的な印象では、稲博士の説とは反対で、少ない蓄積線量であってもガンの発生や死亡率の上昇に悪影響がありそうだという内容なのだが、どうも提示されるデータや実例が断片的なものばかりであって、総合的な判断ができないようになっているように思われて仕方がないのである。チェルノブイリのデータは他のソースでも紹介されているが、いずれも断片的なものばかりに思われる。例えば個人的な具体例の紹介のみで全体の中での位置づけが分からない場合、あるいは特定の放射性物質の濃度のみで、放射線全体のデータが示されていない場合等々。「直線モデル」にしても「しきい値モデル」のいずれにしても、また線量、線量率のいずれにしても、全体を表すグラフの中でその事例がどういう位置を占めるのかという点で一面的、断片的な例ばかりであるような印象なのである。

またもう一つ、稲博士のビデオを見るよりも以前にやはりUチューブで見せてもらった京都大学の小出裕章氏の講演ビデオ http://www.youtube.com/watch?v=4gFxKiOGSDk を見なおしてみた。そうすると確かに直線モデルの解説が含まれていた。先に見たときは当方の知識がなかったために直線モデルの意義を見過ごしていたということなのだろう。このビデオによるとアメリカ科学アカデミーのBEIR-Ⅶ報告が引用され、そこでは直線モデルが正しいと断定され、小出氏もそれを絶対の基準とされているようである。その報告の結論をコピーすると次のようになっている。
「利用できる生物学的、生物物理学的なデータを総合的に検討した結果、委員会は以下の結論に達した。被曝のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はない。」
この報告では「被曝のリスク」という言葉が使われているが、小出氏の方は「影響」という言葉を使っている。

この点で私は思うのだが、影響とリスクとは区別しなければならないのではないだろうか。報告書では「被曝のリスク」という表現だが、これもちょっと判りにくい。具体的に「ガンのリスク」とか、少なくとも「健康リスク」というべきではないだろうか。要するに直接の「影響」と「健康リスク」とは別ものではないだろうか。線量に正比例して何らかの影響が出るにしても、それが即比例的に健康リスクにつながるとは断定できないのではないか。この点を確認するにはやはり現実のデータを見るしかないのは当然である。そこでチェルノブイリや、もっと遡って広島や長崎の被爆者のデータが参考になる筈であり、そういうデータがない筈はないと思われる。しかし、どうも一般向けにそういうデータが包括的に紹介されているとは思われない。すべて断片的な印象である。稲博士がそういう統一的なデータを解析した結果、件のビデオで主張しているような結論に至ったのであるのなら、大いに期待が持てると思うのだが、

付け加えておくと、私は小出氏のビデオから大いに啓発されたし、原発に対する基本的なスタンスには納得出来る。同様に稲博士のビデオにも条件付きで納得でき、期待が持てるというのが正直なところである。

◆ ガンのリスク要因といえば放射線以外にも色いろある。タバコや大気汚染も当然それらの中に含まれる。それらの中でも放射線を特別視する理由はどこにあるかも明確にしておく必要があるように思われる。

◆ 基準値にしてもデータにしても常に線量率と線量の二本立てで基準値を作成し、出来る場合は線量率のデータも公表してもらいたいと思う。普通は線量率ではなく線量で与えられる場合が多いけれども、これは私の想像では、単に測定の容易さや取り扱いの容易さによるものではないだろうか。

私はかつてX線分析の仕事のためにエックス線取り扱い主任者の資格をとったことがあって、当時、作業中はフィルムバッジを付けていた。これは計数管ではなく単なる感光フィルムなので測定期間の蓄積線量しか測ることはできない。今でも現場の作業者が付けている測定器の殆どがフィルムバッジなのではないだろうか。多くの場合に線量率ではなく線量を基準として事が進められているのはこういう実用的な理由によるのではないかと、個人的には推測するのだが、どうなのだろうか?

◆ もちろん、稲博士の説が全面的に正しいとしても原発そのものの危険性や不合理性、あるいは非人道的となる可能性についてはそれらを軽減することにはならないであろうと思う。爆発して高濃度の放射性物質を撒き散らす危険性や危険な労働環境、経済的な不合理性、使用済み燃料の危険性、さらに、結果的には総合的にCO2排出を減らすことにもならないのでは尚更、CO2温暖化説が正しいとしても、正当性がないと言える。

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